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    2017-07-26

    調査契約も民法の規定が適用される契約であることに変わりはないので、契約の成立要件、効力要件を備えている必要があります。

    契約書・重要事項説明書・7条書面の有無

    クーリングオフ対象契約の場合クーリングオフ書面の有無
    まず、第一に契約が成立しているのかどうかの検討から始めてください。そのためには以下に記す契約の成立要件、効力要件を確認してください。
     
    契約の成立要件
      申し込みとその申し込みに合致する承諾が必要です。
    通常は契約書が存在すれば契約の成立要件を満たしていると考えられます。
    従って、調査契約書があれば調査契約の成立要件は満たしていることになります。しかし、調査契約については業法で重要事項説明書・7条書面が必要とされているので、これらの書面も調査契約の成立要件となり、不備の場合、契約は成立せず無効となります。
     
    契約の効力要件
      契約が有効であるための要件を言います。
    A契約当事者に関する要件と、B契約内容に関する要件があります。
       
      A契約当事者に関する要件
    1.意思能力と2.行為能力、3意思表示上の瑕疵における問題が問題となります。
     
     

    1.

    意思能力とは自己の行為の結果を判断することのできる能力のことです。
    意思能力が不存在ならば、契約は無効です。
    依頼者は当然意思能力を備えていると考えられるが、意思能力の有無が疑われる精神障害者の場合もあるので十分注意する必要があります。
    精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の第5条で「精神障害者」とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいうとされており、疑いのある場合は契約締結の際、依頼者から精神障害者ではないとの確認書を取る必要があるでしょう。
    意思無能力を理由として契約が無効になった場合は、契約は最初から存在しなかったことになり、探偵は調査料金を全額返金しなければなりません。

    探偵側が意思無能力に対して、不当利得(民法第703条)返還請求をする場合、1探偵側に損失が生じたこと、2利得者(意思無能力者)が利益を得たこと、3利得と損失の間に因果関係があること、4利得に法律上の原因がないこと
    この4項目を証明して探偵は意思無能力者に不当利得返還請求をすることになります。
    非常に面倒なことになり、調査報告書のみの返還となる場合が多いと思われます。

     
     

    2

    行為能力とは、一般に瑕疵の無い完全な行為をなし得る能力と説明されています。即ち、制限行為能力者(単独で完全な法律行為をおこなうことができない者)である被後見人、被保佐人、被補助人に該当しない者であれば行為能力者として行為能力がみとめられることになります。
     
        被後見人とは民法第7条で精神上に障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者と規定されています。
    被後見人の法律行為は常に取り消しが可能であり、後見人により取り消される可能性があります。
     
        被保佐人とは精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者(民法第11条)
    被補助人とは精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者(民法第15条)
    被保佐人、被補助人の行為は保佐人、補助人の同意なしでなされた場合、契約後に保佐人、補助人、被保佐人、被補助人において取消される可能性があります。取り消されると契約は最初に遡って無効になります。
    その結果、調査料金は全額返金となり、未成年者、被後見人、被保佐人、被補助人等の制限能力者は現に存する利益だけを返還すればよいことになります(民法第121条)。この現存利益の計算が非常に面倒なことになり、意思無能力者の場合と同じように調査報告書の返還を受けるだけとなってしまうこともあるでしょう。
     

    制限行為能力者は自らが無能力者であると告げる義務もなく、後見登記等ファイル(無能力者として登記されていないことの証明書)を提示する義務もないので、制限行為能力者との契約は危険です。また、制限行為能力者ではない証明を強要すると人権問題となる虞があります。
     

    無能力者が能力者と偽って契約を締結した場合は、民法第21条で「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない」と規定されており、取消権を失い、契約が取り消されることはありません。しかし、単に制限能力者であることを黙秘している場合には「詐術」に該当しないと解されています。
       
      上記のように契約当事者の能力に関しては問題があるため、少しでも疑いのある場合は、単独で契約させずに、後見人、保佐人、補助人または代理人と契約するようにするのが賢明でしょう。
         
     

    意思表示上の瑕疵における問題とは契約締結において当事者にA錯誤、B詐欺、C強迫が存在した場合です
    A錯誤があると契約は無効となり(民法95条)詐欺、強迫の場合は取消の対象となります(民法第96条)。
    せっかく契約締結したのに無効、取消の対象となることを避けるためには、調査契約締結に際して錯誤、詐欺、強迫の存否について明らかにすることが必要です。
    錯誤について考えてみると、錯誤とは表示から推断される意思と真意とが一致しない意思表示であって、表意者がその不一致を知らないことです。
    調査契約上に現れる錯誤については、依頼者が調査対象者として全くの別人を指定した場合等が考えられます。調査契約書にAと表示された人物は依頼者の内心の意思でもAであるが、実際はBという人物をAと誤認していたような場合です。表示から推断される意思(Aの調査)と依頼者(表意者)の意図(Bの調査)に食い違いがあれば錯誤とされるので、錯誤無効を主張される虞があります。
    この場合、表意者(錯誤者)に「重大な過失」があれば、無効の主張はできないとされています(民法第95条後段)。ただし、「重大な過失」の存在は、錯誤の意思表示をした者の相手方(探偵)が立証しなければなりません。
    依頼者に「重大な過失」が存在することを証明する方法として、何度も調査事項について再確認させたりすることが必要でしょう。
    錯誤による契約は無効となり、契約は最初から存在しなかったことになり、探偵は調査料金を全額返金しなければなりません。
    探偵側が契約の相手に対して、意思無能力に対するのと同じく、不当利得(民法第703条)返還請求をする場合、1探偵側に損失が生じたこと、2利得者(意思無能力者)が利益を得たこと、3利得と損失の間に因果関係があること、4利得に法律上の原因がないこと

    この4項目を証明して探偵は錯誤による契約の相手意に不当利得返還請求をすることになります。
    非常に面倒なことになり、調査報告書のみの返還となる場合が多いと思われます。

         
        B詐欺、C強迫については十分御存知だと思いますので、簡単な説明にします。
        詐欺の要件は、次のとおりです。
        1. 相手方を欺き、かつ欺くことによって相手方に一定の意思表示をさせようとする意思があること
        2.  「欺罔(ぎもう)行為」(故意に事実を隠蔽し、または虚偽の表示をすること)があること
        3. 騙された者が、欺罔行為によって錯誤に陥り、その錯誤によって騙した者の望んだ意思表示をすること
        4. 欺罔行為に違法性があること
     
        詐欺行為者に二段の故意が必要とされています。相手を欺罔する故意と相手を欺罔して、欺罔に基づいた意思表示をさせる故意です。
        この二段の故意を証明するのは非常に困難です。
        強迫の要件は次の通りです。
     
        1. 相手方を畏怖させ、かつ畏怖させることによって相手方に一定の意思表示をさせようとする意思があること
        2. 強迫行為があること
        3. 脅された者が、強迫行為によって畏怖し、その畏怖によって脅した者が望んだ意思表示をすること
        4. 強迫行為に違法性があること
         
        ここでも二段の故意が必要となります。
         
        一般的に、契約時における詐欺、強迫を消費者である一般顧客が証明することは非常に困難なので、消費者契約法において証明の困難から消費者を救済する規定が存在します。
     
    消費者契約法による取消
      詐欺的形態におけるものにつき第四条一項一号、二号で以下のように取り消しを認めています。
       
      一号は不実告知と言われ、事業者(探偵)に故意過失が無くとも、告知内容が客観的に真実で無いことで足ります。
    調査契約の例に則して考えてみると、調査歴10年のベテラン調査員又はアメリカ仕込みの調査員と契約時に告げたが、真実ではなかった場合です。
    但し、5名で調査しますと告げて、真実は2人だった場合は、不実告知には該当せず、債務不履行の問題となります。注意すべきは、最初から依頼者を騙すつもりならば詐欺となってしまうことです。
      二号は断定的判断の提供と言われるもので、調査をして結果が出れば相手から慰謝料が取れる等と告げることです。「絶対に」とか、「必ず」とかの強調的文言は必要ではありません。単に、「慰謝料が取れる」と告げただけでも断定的判断の提供に該当します。
    但し、「取れる可能性がある」と告げることは断定的判断の提供には当たりません。
       
      参照条文
      第四条
        消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
      重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
      物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
       
     

    強迫的形態におけるものにつき第四条三項で以下のように取り消しを認めています。 

         
      消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
      当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行って いる場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。
      当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。
     
    従って、調査契約書に署名押印されていても、上記の消費者契約法第四条一項、三項に該当する事由があるかどうかを吟味する必要性があります。
         

     

    執筆者:榎本事務所 榎本 了仁

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