東京都調査業協会

探偵コラム

第23回:GPS論争まだまだ続く ついに最高裁の大法廷に

~強制捜査か任意捜査か 地裁、高裁の判断が分かれる~

調査・探偵業だからこそ、「GPS論争」は注視し、行く末を見届ける必要があるでしょう。
裁判所の令状が無いまま車両にGPS(全地球測位システム)発信器を取り付けた追尾捜査が、違法か否か、が争われた刑事裁判の上告審で、最高裁第2小法廷(鬼丸かおる裁判長)は10月5日、審理を大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)に回付したと云います。

既にご承知のとおり、GPS捜査は、令状が必要な強制捜査に当たるか、任意捜査として許容されるか、否かは、地裁・高裁の判断が分かれています。今後、GPS捜査の違法性について、大法廷が初めて判断を示す可能性があると云います。

実はGPS捜査については法律の規定がなく、警察は内規において「令状が不要な任意捜査」と位置付けていると聞かれます。しかしその一方で、容疑者のプライバシー侵害などを理由に、違法とした地裁・高裁の判決が少なくとも4件のようです。

従って、大法廷が令状のないGPS捜査を違法とした場合、今後の捜査に大きな影響を与えかねません。

今回、大法廷で審理されるのは、事務所荒らしを繰り返したなどとして窃盗罪に問われた大阪府の男(45歳)の裁判。1、2審判決によると、大阪府警は2013年5~12月、男と共犯者の車やバイク計19台に裁判所の令状を受けないままGPS端末を設置。数十メートル程度の誤差で車の位置が携帯電話の画面に表示されるシステムを使って追尾捜査をした。1審・大阪地裁は、捜査員がGPSのバッテリー交換のため無断で私有地に立ち入ったことなどを重視。「大きなプライバシー侵害を伴う捜査で、令状が必要。令状なしの府警の捜査には重大な違法がある」としてGPS捜査で得られた証拠を審理から排除した。しかし、残りの証拠などから被告を有罪とした。
2審・大阪高裁は、警察がGPSで取得した情報を蓄積して利用していなかったことなどから「重大な違法とは言えない。被告らは頻繁に車を乗り換えており、GPS捜査には相当の理由があった。」などと指摘。令状が必要かは判断せず、弁護側の控訴を棄却していた。

大法廷は憲法判断が必要な場合や、法律上重要な争点がある場合に開かれます。だからこそ、弁護側は「2審判決は令状主義を定めた憲法に違反している!」などと上告したのです。

■プライバシー侵害 高裁で違法性の判断分かれる
警察当局はGPSについて、事件への関与が疑われた人の尾行を助ける道具と位置付け、使用できるのは「追跡困難な事件」などに限っているとしている。これに対して、これまでの判決はプライバシー侵害をどの程度重視するかによって、違法性の判断が分かれてきました。2016年6月の名古屋高裁判決は、愛知県警が連続窃盗事件で約3カ月半にわたって令状なしのGPS捜査を続け、計1653回の位置検索をしたと認定。「警察の内規に定めた『捜査上特に必要がある』とは認めがたい。プライバシー侵害の危険性が相当程度現実化している」と指摘して捜査を違法と判断した。さらに、GPSの性能が進歩することを見越して「新たな立法的措置も検討されるべきだ」と述べています。

一方、同年7月の広島高裁判決は、広島県警によるGPS捜査について「車は公道を移動し、不特定多数の人が出入りする場所に駐車することも多い。プライバシーとして保護する必要性は高くない」と述べ、違法性を否定しています。

■他山の石
GPS捜査は警察の話であって、憲法、刑事訴訟法、犯罪捜査規範の類。その論点は「令状主義」、「プライバシーの侵害の程度」、「証拠能力」でしょう。
ですが、これを調査・探偵業に置き換えてみますと、無関係とは云い切れません。
我々の業こそ、その目的を完遂しようとすればするほど、個人のプライバシーにより近くに位置します。だからこそ、関係者の人間模様や機微を感じるものです。

今回、GPSとテーマとしましたが、様々な社会問題、事件事故には必ずヒントが隠されています。それを仕事に生かしていきたいと思います。

執筆者:レストルジャパン21(株) 石井 健

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